旧片山家住宅は伝統的建造物群保存地区である吹屋の中町に位置する。中町は町並みの中心部で最も広壮な構えを誇っており、ベンガラ窯元の本家、分家、問屋、薬屋、料理旅籠屋などが軒を連ねている。中でも旧片山家住宅は、宝暦9年（1759）の創業以来、200年余りにわたって、ベンガラ製造と販売を手がけた老舗である。その家屋はベンガラ屋としての店構えを残す主屋とともにベンガラ製造に関わる付属屋が敷地内に立ち並んでおり、「近世ベンガラ商家の典型」として評価され、平成18年（2006）に国の重要文化財に指定された。
　通りに面した主屋は、一階に弁柄格子、二階に海鼠壁（なまこかべ）と虫籠窓（むしこまど）といった伝統的な意匠に加え、両開きの大戸や腰壁などに近代的な装いが見られる。塩田瓦で葺かれた屋根は、江戸時代後期から明治時代後期にかけて家業の隆盛に伴って増築を繰り返した結果、階段のように棟の高さが変化している。内部は、通りに面した表を営業の場にあて、その奥は土間に大きな竈（かまど）を築くなどして生活の場に用いられた。また、庭に面して建つ座敷は、石見（島根県西部）から招いた大工に銘木をふんだんに用いて建てさせた非常にぜいたくなつくりとなっている。国の重要文化財に指定されているのは、主屋、宝蔵、弁柄蔵、米蔵、仕事場及び部屋の5棟である。
　あわせて、旧片山家住宅の家相図3枚も指定されている。指定されている家相図は、文政13年（1830）、安政2年（1855）、安政7年（1860）のもので、それらから部屋の呼び方や配置などの変遷をうかがい知ることができる。