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地名をあるく 83.磐窟谷(渓)

ページID:0008066 印刷用ページを表示する 掲載日:2012年8月1日更新

 「磐窟谷」は、川上町七地から備中町布瀬にまたがる成羽川の支流、布瀬川上流に位置する渓谷で、昭和六年国指定の名勝になっている場所であります。川上町七地の北西端から備中町布瀬との境界付近で、布瀬川に合流している谷で、西には川上町高山、北には備中町布賀が、東には備中町布瀬や川上町七地があります。

 付近には、標高五〇〇メートル前後の中新世(約七〇〇万年前)に形成された吉備高原の小起伏面が広がり、川上台・成羽台に続く、二億八千万年前の石炭紀に堆積した石灰岩が分布する台地となっていて、カルスト地形が発達しています。台地上の川上町七地には、きちんとした水路の形成が見られず、小さな起伏面が多く残されていて、すり鉢状のドリーネやウバーレ(ドリーネの凹がつながって大きくなったもの)やポール(吸い込み穴)などの凹地やカレンフェルト(石塔群)が見られる場所となっています。

 このような石灰岩の台地を布瀬川の上流の磐窟川が深く浸食して、高さ一〇〇メートルに及ぶ断崖絶壁をつくっているV字谷の峡谷を「磐窟渓」といいます。

 石灰岩の断崖絶壁を中心とする磐窟渓谷は、まさに自然の奇観で、継子岳、白岳、神楽岳、打岳などは特に白亜の岸壁を見せていて「奇峰天に柱する」風景なのです。植物学的にも貴重な場所といわれ、品種も多く、暖地性、温地性、湿地性、亜寒帯性などの種類が見られ、亜熱帯性の草は、日本における分布の最北限地といわれています。サトイモ科のムサシアブミなどが自生しています。一帯約三〇ヘクタールが原生林に被われていて、国指定の名勝に指定され「小耶馬渓」ともいわれ、四季折々の美しさは見事だといわれています。

 磐窟渓の左岸には、チャートといわれるけい酸分の多い、緻密で硬い堆積岩(火打ち石・角岩とも呼ばれる)が見られ、右岸の炭酸カルシウムを含む堆積岩(石灰岩)の崖とは対照的で「磐窟渓」は、地学や地形学の宝庫であるともいえるのです。

 「打岳」といわれる中腹の海抜二五〇メートルのところには、別名「ダイヤモンドケーブ」といわれる鍾乳洞があります。この鍾乳洞は、閉塞型洞窟(とじふさがれていた洞窟)といわれ、約七万年かかって、生長したといわれるもので、奥行きが四〇〇メートルあって、石灰岩台地の地中を地下水が石灰岩を溶食して、縦穴や横穴が複雑に組み合わさっていて、洞内には石灰分の沈殿によってできた鍾乳石や石筍、石柱などの奇岩が多く見られます。また日本で注目されている「曲がり石」といわれる鍾乳石の一種で、天井に重力には無関係に、いろんな方向に、もやしのように曲がりくねって生長した「ヘリクタイト」が数多く見られるのも非常に珍しいといわれる鍾乳洞(ダイヤモンドケーブ)なのです(現在は閉鎖されています)。特に青葉・若葉の頃や秋の紅葉の頃の「磐窟渓」は、すばらしい景勝地となっています。

 「磐窟」の磐は、岩の字と同じ意味で「岩山」とか「岩石の多い場所」を示す地名で「窟」は「くつ」と読み、「あな」「ほらあな」「あなぐら」などの意味を表しています。「磐窟」は石灰岩の渓谷にふさわしい地名で、景勝地によく使われる地名なのです。 (文・松前俊洋さん)